はじめに
やることがたくさんあるのに、何から手をつけたらいいか分からない。
頭の中では、
・昨日の「あの一言」を延々とリプレイ
・明日の予定や不安が先回りして心配
・ふとした瞬間に、まるで脳内会議が始まる
・気づいたら、何もしていないのにぐったり疲れている・
そんな 「思考の渋滞」状態、覚えはありませんか?
作業療法士としてお話をうかがっていると、
- 仕事のことを考えすぎて、休んでいても休まった気がしない
- 育児や家事の「やることリスト」が頭の中で鳴りやまず、イライラしてしまう
- ベッドに入ると急にあれこれ考えてしまい、眠れなくなる
という方は、とても多いです。
こうした「頭のざわざわ」に有効なのが、今回のテーマ マインドフルネス です。
この記事では、
- マインドフルネスって実際なに?(宗教っぽいものではないです)
- なぜ頭がこんなに渋滞するのか?
- 思考を整理するための3つのステップ
- 日常でムリなく続けるコツ
を、できるだけやさしい言葉でまとめていきます。
「考えすぎてしんどい」を、少しでも軽くしたいときの頭と心の交通整理術 として、使ってもらえたら嬉しいです。
マインドフルネスとは?──「今ここ」に意識を戻す力
マインドフルネス(mindfulness)は、ひとことで言うと、「今この瞬間」に、意識を戻す力です。
ハーバード大学の研究(Killingsworth & Gilbert, 2010)では、
- 人の心は、約47%の時間を「過去」か「未来」さまよっている
- 「今ここ」に意識がある人ほど、幸福度が高い
という結果が示されています。
私たちの心は、
- 過去の後悔
- 未来の不安
に引っ張られやすく、その結果、「今やっていること」への集中力が落ちてしまいます。
マインドフルネスは、過去や未来のことでいっぱいになった「注意」を、いったん 今ここに連れ戻してくる練習
だとイメージしてもらえると、ぐっと分かりやすくなります。
決して「無心になる」「何も考えない」修行ではありません。
浮かんでくる思考をジャッジせずに、そのまま眺める 心のトレーニングです。
なぜ「思考の渋滞」が起きるのか?
UCLAの神経科学研究によると、人が考えすぎているときには、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)と呼ばれる脳のネットワークが過剰に活動していることが分かっています。
このネットワークは、
- 自分のことを考える
- 過去を思い出す
- 未来をシミュレーションする
ときに働く「内側の映画館」のようなもの。
そのため、
- 「あのとき、ああ言わなきゃよかった」
- 「明日の会議、絶対うまくいかない気がする」
といった 頭の中の映画 がずっと上映され続けると、現実の状況に関係なく、脳が疲れてしまいます。
その結果、
- 目の前の作業に集中できない
- ぼーっとしてミスが増える
- 感情も不安定になりやすい
といった状態につながります。
つまり「思考の渋滞」は、脳の「内側モード」がオーバーヒートしている状態 とも言えます。
そこで役に立つのが、意識を「今ここ」に戻すマインドフルネス です。
思考の交通整理をする3つのステップ
ここからは、日常の中で実践しやすい 3つのステップ をご紹介します。
- 呼吸に戻る(Return to breath)
- ラベリングする(Labeling)
- 優先順位をつける(Sorting)
紙やスマホのメモがあれば、③で使うとより効果的です。
STEP1:呼吸に戻る──「今ここ」にアンカーを打つ
まずは、呼吸に意識を戻す ところから。
難しく考えなくてOKです。
1〜2分でいいので、
- 吸う
- 吐く
そのリズムだけに注意を向けます。
やり方の一例:
- 楽な姿勢で、背もたれに軽く寄りかかる
- 目は閉じても開けたままでもOK
- 「息が鼻を通る感覚」「胸やお腹の膨らみ・しぼみ」に注目する
- 考え事が浮かんだら、
「考えごとが浮かんだな」と気づいて、そっと呼吸に戻す
ここで大事なのは、「考えないようにする」ことではなく、浮かんでも、気づいて呼吸に戻る という動きを繰り返すこと。
オックスフォード大学のMBCT(マインドフルネス認知療法)でも、この「呼吸への注意を何度も戻す」練習が、感情の安定に役立つことが示されています。
STEP2:ラベリングする──思考に名前をつけて客観視する
次に、頭の中に浮かんできた考えを、ラベリング(名前付け) します。
例:
- 「これは 未来の不安 思考だな」
- 「今は 過去の後悔モード に入っている」
- 「また 他人の評価フィルター が発動してる」
ポイントは、思考の中身を深掘りするのではなく、「どういう種類の考えか」を一言でラベルにすること。
これだけで、
- 思考=自分ではなく
- 思考=浮かんでは流れていく「心のイベント」
として扱いやすくなります。
感情を言語化すると扁桃体の活動が落ち着く、という研究があるように、思考にもラベルを貼ることで、脳が 「一歩引いた観察モード」 に切り替わりやすくなります。
STEP3:優先順位をつける──「今やる・後でやる・手放す」に仕分ける
最後に、頭の中のあれこれを3つのフォルダに分けるイメージ で整理していきます。
3つのフォルダ
- 今できること
- 今日・今から10〜30分以内に着手できること
- 例)「1本だけメールを返す」「書類を1枚だけ進める」
- 今日・今から10〜30分以内に着手できること
- 後でやること
- 今日中・今週中にやれたらいいこと
- 手帳やアプリにメモして、いったん頭の外に出します
- 今日中・今週中にやれたらいいこと
- 今は手放すこと
- 自分ではコントロールできないこと
- まだ具体的には動けない心配ごと など
- 自分ではコントロールできないこと
実際に紙に書いてみると、さらに整理されます。
例:
- 「上司にどう思われているか」 → 今は手放す
- 「今日中に返信が必要なLINE」 → 今できること
- 「今月中にやりたい勉強」 → 後でやること
この「仕分け」をすると、脳の前頭前野(計画・判断を司る部分)が働きやすくなり、“今やる一歩”に集中しやすくなる ことが報告されています(Garland, 2015 / 国立精神・神経医療研究センター, 2021)。
続けることで脳が変わる
スタンフォード大学などの研究(Lazar et al., 2011)によると、
- マインドフルネスを 1日10分・8週間 続けた人の脳では、
- 前頭前野(注意・判断)
- 海馬(記憶とストレス耐性)
- 前頭前野(注意・判断)
- の灰白質が増加していた、という報告があります。
また、国立精神・神経医療研究センター(2021)では、
- マインドフルネス認知療法を受けた人は
- 自動的に浮かぶネガティブ思考が約30%減少
- 集中力が約20%向上
- 自動的に浮かぶネガティブ思考が約30%減少
というデータも出ています。
つまり、マインドフルネスは「気休め」ではなく、続けることで、思考を選びやすい脳に変わっていくトレーニングだと言えます。
日常生活での取り入れ方 作業療法士としての視点
「よし、毎日30分瞑想しよう!」…と意気込むと、たいてい続きません(笑)
おすすめは、生活のすき間に小さく組み込むこと です。
①朝起きた直後に「10呼吸だけマインドフル」
- ベッドの上でOK
- 目を閉じて、ただ 10回だけ呼吸を感じる
「吸う・吐く」に集中してみるだけでも、1日のスタートが少し整いやすくなります。
②移動中に「ラベリングゲーム」
電車やバスに乗っているとき、頭の中に浮かんだことに、心の中でラベルをつけてみます。
- 「未来の不安」
- 「他人比較」
- 「過去の反省会」
など、ジャンル分けをするだけです。
中身を深掘りせず、ラベルを貼って終わり にするのがコツです。
③寝る前に「3つの仕分け」
- 今日やり残してモヤモヤしていることをメモ
- 「明日やる」「今週中にやる」「いったん保留」に分ける
頭の中から一度「紙」に移すことで、脳が「もう覚えていなくていい」と判断しやすくなり、寝つきが良くなる方も多いです。
さいごに
頭の中がざわざわして、何から手をつけたらいいか分からないとき、私たちはつい自分を責めがちです。
- 「また考えすぎてる」
- 「もっとテキパキできない自分が悪い」
でも、「思考の渋滞」は、あなたの脳が一生懸命 あれこれを何とかしようとしている証拠 でもあります。
そんなときこそ、
- 呼吸に戻る(今この瞬間にアンカーを打つ)
- ラベリングする(思考に名前をつけて距離をとる)
- 優先順位をつける(今やる・後でやる・手放すに分ける)
この3ステップを、できる範囲で試してみてください。
「全部を一気に片づける」のではなく、「今やる一歩」を見つけるための交通整理
それが、マインドフルネスの力です。
思考の渋滞は、悪いことではありません。
ただ、少しだけ 信号機と案内板 を増やしてあげることで、心と頭の流れは、必ず変わっていきます。
参考文献
- Killingsworth, M. A., & Gilbert, D. T. (2010). A wandering mind is an unhappy mind. Harvard University.
- Lazar, S. W. et al. (2011). Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density. Stanford University.
- Garland, E. L. (2015). Mindfulness and cognitive control: Implications for emotion regulation. Oxford University.
- 国立精神・神経医療研究センター(2021)マインドフルネス認知療法による自動思考の変容に関する研究

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