はじめに
作業療法士として赤ちゃんやご家族と関わっていると、よくこうした声を聞きます。
- 「どう抱っこしたらいいのか自信がない」
- 「母乳じゃないと、ちゃんと絆が育たない気がする」
- 「忙しくて、ゆっくりスキンシップする余裕がない」
私自身も、最初に赤ちゃんを抱いたとき
・あれでよかったかな
・ちゃんと伝わっているかな
と、あとから何度も頭の中で巻き戻してしまったことがあります。
でも、医学や心理学の研究を読み込んでいくと、はっきり分かってきたことがあります。
赤ちゃんの発達と親子の絆を育てるのは、「完璧なやり方」ではなく「毎日の小さなふれあい」だということです。
しかも、新生児のスキンシップは
- 脳の発達を助ける
- ストレスをへらす
- 親の心の安定にもつながる
ということが、世界中の研究で少しずつ確かめられてきています。
この記事では
- スキンシップが赤ちゃんの脳と心に何をしているのか
- 今日からできる、やさしいスキンシップの工夫
- 作業療法士として見てきた「ママ・パパの心が楽になるポイント」
を、できるだけやさしい言葉でお話しします。
スキンシップが赤ちゃんの脳と心に与える影響
まず知っておいてほしいことは、スキンシップは、赤ちゃんの脳にとって「栄養」と同じくらい大事な刺激だということです。
赤ちゃんと肌と肌でふれ合うとき、体の中ではこんなことが起きています。
- ママ・パパと赤ちゃん、両方の体で「オキシトシン」という愛情ホルモンが増える
- 赤ちゃんの心拍や呼吸が安定しやすくなる
- 親のほうのストレスホルモン(コルチゾール)が下がりやすくなる
イギリスの病院がまとめたカンガルーケア(抱っこでの肌と肌のふれあい)の解説では、
胸の上で赤ちゃんを抱くことが、体温や呼吸、心拍を安定させ、親子の絆を強める方法として紹介されています。
つまり、スキンシップは「甘やかし」ではなく、赤ちゃんの命のスイッチを整えるケアなんです。
作業療法士としても、抱っこや肌と肌のふれ合いを続けているご家庭では
- 赤ちゃんの表情がだんだん豊かになる
- ママ・パパの表情も少しずつやわらかくなる
そんな変化をよく目にします。

私の娘が帝王切開で生まれたときもカンガルーケアを行いました。
愛情が伝わるスキンシップのポイント
ここからは、今日からできる具体的なコツを3つにしぼってお話しします。
1つ目のポイント ゆっくり・あたたかいタッチを心がける
新生児の肌は、とてもデリケートです。
そのため、
- 強くこする
- 速くポンポンたたく
よりも、
手のひら全体で、ゆっくりなでるタッチのほうが安心しやすいと言われています。
海外の研究では、「ゆっくり・やわらかいタッチ」が赤ちゃんのリラックス反応を引き出しやすいことが報告されています。
具体的には、こんなイメージです。
- 胸からおなかに向かって、なでおろす
- 背中を丸く包むように、てのひらで支える
- 足をそっと握って、すーっとなでる
難しいマッサージのやり方を覚えなくても、「あたたかい手で、ゆっくり」だけで十分です。
2つ目のポイント 見つめて、声をかけながら触れる
スキンシップのときは、
- 触れる
- 見つめる
- 声をかける
この3つがそろうと、とても良い影響が出やすいことが分かっています。
赤ちゃんの視力はまだ弱いですが、だいたい30センチ前後の距離で、ぼんやりとママ・パパの顔が見えます。
授乳や抱っこのときに
- 「気持ちいいね」
- 「よく頑張って飲んでるね」
- 「ここにいるよ」
など、短くてやさしい言葉をかけてあげてください。
作業療法士として、発達相談で関わってきた赤ちゃんたちを見ていると、
「声+タッチ+視線」の3つがそろっているご家庭は、親子ともに落ち着きやすい傾向があると感じています。
3つ目のポイント 完璧を目指さず「毎日少しだけ」でOK
よく
- 毎日何分やらなきゃだめですか
- さぼった日は、赤ちゃんに悪いですか
と聞かれることがあります。
結論から言うと、「少しでも、続けられるペースで」を大事にしてほしいです。
先ほど紹介したカンガルーケアやスキンシップの研究でも、1日に10分程度の肌と肌のふれあいを続けたグループで、
- 親の不安がへり
- 赤ちゃんの睡眠リズムが整いやすくなった
という結果が出ています。
毎日30分や1時間を目指す必要はありません。
- 授乳のあとに、1分だけ胸に抱いてなでる
- おむつ替えのあとに、足をすーっとなでる
- 寝る前に、ほっぺをそっと触りながら「おやすみね」と声をかける
この「1分の積み重ね」が、赤ちゃんの脳と心の土台になっていきます。
ママ・パパの心を守るスキンシップ
ここまで読むと、
スキンシップは赤ちゃんのためと思うかもしれませんが、
実は、ママ・パパの心を守るケアでもあります。
研究では、
- 肌と肌のふれあいを続けている親ほど
- 不安や落ち込みのスコアが低く
- 赤ちゃんとの関係に「安心感」を感じやすい
- 不安や落ち込みのスコアが低く
という結果が出ています。
作業療法士としても抱っこやスキンシップをするたびに「この子は、今ここにいる」「ちゃんと呼吸している」と感じられて、 親御さんのほうが落ち着いていく場面をたくさん見てきました。
私自身も、仕事や家事でバタバタしている日ほど、ほんの短い時間でも
- 赤ちゃんの体温を感じる
- 小さな手足をなでる
ことで、こちらの呼吸もゆっくりに戻っていく感覚を何度も味わいました。
スキンシップは、赤ちゃんだけでなく「親の回復の時間」にもなります。
さいごに
ここまでの内容を、あらためて整理します。
- スキンシップは、赤ちゃんの脳と心を育てる大事な「栄養」
- 肌と肌のふれあいは、オキシトシンを増やし、親子の安心感を高める
- ポイントは「ゆっくり触れる・見つめる・声をかける」の3つ
- 長時間よりも、毎日の小さな積み重ねがいちばん大切
作業療法士として、いろいろなご家庭を見てきましたが、
親子の絆を育てているのは
- 特別な高級おもちゃでも
- 特別な育児法でも
ありませんでした。
赤ちゃんの体温を感じながら「ここにいるよ」「大好きだよ」と、毎日くり返される小さなスキンシップでした。
もし今、
- スキンシップが足りないかも
- きちんとできている自信がない
と感じていたとしても、今日から「1分」だけ、意識して触れてみてください。
赤ちゃんは、完璧な親ではなく「そばにいてくれる人のぬくもり」をいちばん求めています。
そのぬくもりを、あなたはもうちゃんと持っています。
参考文献
- Feldman, R. et al. (2024). Parents Holding Their Infants in the NICU: Effects on Parents’ and Infants’ Stress Hormones.
- Birmingham Women’s and Children’s NHS Foundation Trust. Kangaroo Care – The power of skin-to-skin infant development, 2023.
- Additional background: social touch and stress regulation に関する近年の総説論文などを参考に構成


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