はじめに
気づいたら頭の中で、
- 「もしあのとき、ああしていれば…」
- 「これからどうしよう…最悪のパターンになったら…」
と、考えがグルグル止まらなくなることはありませんか?
私自身も、寝る前や仕事の休憩中に、過去の失敗や未来の不安を何度もリピート再生してしまい、
- 目の前のことに集中できない
- 眠りが浅くなる
- なぜかずっと疲れている
そんな状態になっていた時期がありました。
スタンフォード大学の研究では、過去や未来への考えごとが続くと、ストレスホルモンである コルチゾール が増え、集中力や睡眠の質が落ちることが報告されています(Stanford University, 2018)。
では、この「思考の暴走」をどう止めればいいのでしょうか?
ポイントは、考えをムリに止めるのではなく、今この瞬間(=今ここ)へ戻る練習 をすることです。
今日は、心理療法としても実証されている
- STEP1:気づく
- STEP2:体に戻る
- STEP3:追い払わず流す
という、思考を落ち着かせる3ステップ を、やさしく解説していきます。
STEP1:気づく——「私は今、考えている」とラベルを貼る
まず最初のステップは、とてもシンプルです。「あ、いま私は考え続けているな」と気づいてあげること。
オックスフォード大学のマインドフルネス研究チームの報告では、自分の状態に「気づく」だけで、
- 不安を司る脳の「扁桃体」の活動が下がり
- 同じことを繰り返し考える 反芻思考 が減る
ことが分かっています(Kuyken et al., 2015)。
やり方
頭の中で、こんなふうに言葉にしてみてください。
- 「私は今、先のことを心配している」
- 「私は今、さっきの出来事をぐるぐる考えている」
- 「私は今、“最悪の想像”をしている」
ポイントは、「私はダメだ」ではなく「私は今、〇〇を考えている」と、自分と“考え”を少し切り離して表現すること。
「考えに飲み込まれている自分」から、「考えを眺めている自分」に、ほんの少しポジションが変わります。
この「半歩引いて見る感覚」が、思考の暴走を緩める最初の一歩になります。
STEP2:体に戻る——五感に注意を向ける
次のステップは、意識を「頭の中」から「体」に戻すことです。
思考が暴走しているとき、私たちの注意は
- 過去(あのときの後悔)
- 未来(まだ起きていない不安)
に飛んでしまっています。
ここで役に立つのが、五感に戻る練習 です。
こんな風に試してみてください
- 椅子や床に触れている「体重の感覚」
- 足の裏が、地面にくっついている感触
- 服が肌に当たる、わずかな圧迫感
- 息を吸ったとき、鼻や喉を通る空気のひんやりした感じ
- 周りの音(エアコンの音、遠くの車の音、時計の音…)
これらを「ジャッジせずに、ただ感じてみる」だけでOKです。
国立精神・神経医療研究センターの研究では、こうした 身体感覚への注意 を1日5分行った人は、1週間後、不安のスコアが平均23%低下したという結果も出ています(2020)。
ポイント
- 正しくやろうとしなくて大丈夫
- 1分〜3分だけでもOK
- 「感じようとする姿勢」そのものが練習
「今ここ」に戻ることは、決して難しい瞑想ではなく、自分の体にチャンネルを合わせ直す作業 だと思ってみてください。
STEP3:受け入れる——思考を追い払おうとしない
最後のステップが、とても大事な部分です。
多くの人がやってしまうのが、
- 「考えないようにしなきゃ」
- 「こんなこと考えちゃダメだ」
と、思考を力づくで追い払おうとすること。
でも、心理学の有名な研究(Wegner, 1987)では、「白クマのことを考えないでください」と言われた人ほど、 白クマのことばかり考えてしまう
という「ホワイトベア効果」が示されています。
つまり、「考えるな」と命令すればするほど、 脳はその考えに執着してしまうという、ちょっとしたクセがあるのです。
じゃあ、どうすればいいの?
浮かんできた考えに対して、こう言ってみてください。
- 「あ、また心配の考えが出てきたな」
- 「“もしも”のストーリーが、頭の中で再生されてるな」
そして、
追い払わずに、「来て、また去っていく様子」を眺める
だけでOKです。
イメージとしては、
- 空を流れていく雲
- 川を流れていく落ち葉
のように、「自分は岸・空側にいて、流れていくものを見ている」感覚です。
思考そのものを消すのではなく、「あ、また来たね」と気づき五感や呼吸に戻り流れていくのを見送る。
この繰り返しが、少しずつ「暴走列車」のスピードを落としてくれます。
日常での「今ここ」練習の取り入れ方
ここまでの3ステップを、一気に完璧にやろうとする必要はありません。
おすすめは、1日1〜2回、1分だけやってみること。
たとえば…
- 電車に乗ったときの1分間
- 歯みがきの前後
- 寝る前、スマホを置いたあと
に、
- 「私は今、〇〇を考えている」と気づく
- 椅子・床・呼吸の感覚を30〜60秒だけ感じてみる
- 浮かんでくる考えを「また考えてるな」とラベルだけ貼って流す
この「小さな練習」を積み重ねるだけで少しずつ、
- 思考のオン・オフの切り替えがしやすくなる
- 気づいたときに、今ここへ戻る「道」が太くなっていく
そんな変化が生まれてきます。
イギリスでは、このような「今ここ」の練習を取り入れたマインドフルネス認知療法(MBCT) が、うつ病の再発予防として医療保険で推奨される公式治療にもなっています。
それだけ、「今ここ」に戻る力は、心の健康を守る土台になっているということです。
さいごに
思考の暴走を止めるのは、「考えるな!」と自分を叱ることでも、「ポジティブに考え直さなきゃ」と無理に方向転換することでもありません。
大事なのは、
- 気づく
- 「私は今、考え続けている」とラベルを貼る
- 「私は今、考え続けている」とラベルを貼る
- 体に戻る
- 椅子・足の裏・呼吸など、五感に注意を向ける
- 椅子・足の裏・呼吸など、五感に注意を向ける
- 追い払わず流す
- 考えを「雲」や「落ち葉」のように、来ては去っていくものとして眺める
- 考えを「雲」や「落ち葉」のように、来ては去っていくものとして眺める
という、今ここへ帰ってくる小さな練習 です。
頭の中が騒がしいときこそ、一度立ち止まって、そっと自分に問いかけてみてください。
「今、この瞬間に戻るとしたら、何を感じられるだろう?」
思考が少し静かになると、心は自然と、自分のペースを取り戻していきます。
参考文献
- Kuyken, W. et al. (2015). Mindfulness-Based Cognitive Therapy and Emotional Regulation. Oxford University.
- Stanford University (2018). Cortisol Regulation through Present-Moment Awareness.
- Wegner, D. M. (1987). The Paradoxical Effects of Thought Suppression.
- 国立精神・神経医療研究センター(2020)マインドフルネス実践による不安軽減効果の検証
- 日本心理学会(2021)五感を用いた注意訓練とストレス軽減

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