はじめに
作業療法士として赤ちゃんやご家族と関わっていると、よくこんな声を聞きます。
- 「沐浴の時間になると緊張してしまう」
- 「泣かせちゃいけないと思うと、こっちまでドキドキする」
- 「温度も姿勢も全部これで合っているのか不安」
私自身も、初めての沐浴を見学したとき小さな体にお湯をかけるだけで、「大丈夫かな」と一緒に力が入っていました。
でも、医学や発達の研究を読んでいくと
- 沐浴は、体をきれいにする時間だけではなく
- 赤ちゃんの「脳」と「心」と「体」をまとめて育てる時間
だということが、はっきり分かってきました。
この記事では、
- 沐浴が赤ちゃんと親にとってどんな意味を持つのか
- 赤ちゃんが安心しやすい「空間の整え方」
- 作業療法士として見てきた、頑張りすぎないコツ
を、小学生でも読めるくらいのやさしい言葉でお話しします。
沐浴は「スキンシップ+体温調節+リラックス」の時間
日本小児科学会のガイドラインでは、新生児期の沐浴には主に3つの目的があると言われています。
- 皮膚を清潔に保つこと
- 体温の調整機能を助けること
- 親子のスキンシップを深めること
この中でも、私が特に大事だと感じているのが3つ目のスキンシップです。
スウェーデンの研究では、抱っこやマッサージなどのやさしいタッチがあると、赤ちゃんと親の体の中でオキシトシン(愛情ホルモン)が増えることが分かっています。
このホルモンは、
- 不安をやわらげる
- 心拍を落ち着かせる
- 「この人は安心できる人だ」と感じる土台を作る
といった働きをします。
つまり、沐浴は「きれいにする時間」+「安心を届ける時間」でもあるということです。
作業療法士としてご家庭に入るときも、私は「上手に洗えているか」よりも、「どれだけ安心して触れ合えているか」を一緒に確認するようにしていました。
温度と明るさは「赤ちゃんの安心スイッチ」
赤ちゃんが沐浴で落ち着きやすいかどうかは、お湯の温度とお部屋の温度、そして照明の明るさに大きく影響されます。
お湯とお部屋の温度
厚生労働省や小児科のガイドラインでは、
- お湯の温度:38〜40℃くらい
- 室温:24〜26℃くらい
が目安とされています。
お湯が熱すぎると、赤ちゃんの心拍が一気に上がってしまい、冷たすぎると体がギュッと縮こまり、泣きやすくなります。
迷ったときは「ちょっとぬるめかな?」くらいから始めて、赤ちゃんの反応を見ながら調整すると安心です。
照明の明るさ
研究では、強い白い光よりも、すこし暗めであたたかい色の光の方が
- 赤ちゃんの心拍が安定しやすい
- 大人のほうもリラックスしやすい
ことが分かっています。
- 浴室や脱衣所の照明を少し暗めにする
- まぶしいダウンライトなら、別のスタンドライトに切り替える
など、「寝る前の部屋」くらいの明るさを目安にしてみてください。
作業療法士としても、照明を少し落としただけで、それまで泣いていた赤ちゃんがスッと落ち着く場面を何度も見ています。
光の調整は、簡単なのに効果の大きい環境調整のひとつです。

私の娘の実際の沐浴シーンです。生後2ヶ月ちょっとの時期です。
声と音は「安心を運ぶBGM」
沐浴のとき、「静かにしなきゃ」「集中しなきゃ」と感じて無言になってしまう方も多いのですが、実は、赤ちゃんにとっていちばん安心するのはパパ・ママの声です。
国立成育医療研究センターの研究では、沐浴中に親がやさしく話しかけると、赤ちゃんのストレスホルモンが下がり、心拍が安定しやすいことが報告されています。
声かけのポイント
- 声はゆっくり・少し低め・一定のトーンで
- 難しい言葉は不要で
- 「あったかいね」
- 「きもちいいね」
- 「がんばってるね」
など、短い一言でOK
- 「あったかいね」
大切なのは「完璧なセリフ」ではなく、「同じ言葉を何度もくり返すこと」です。
同じフレーズが繰り返されるほど、赤ちゃんは「この声=安心」と学習していきます。
私もご家族には、
- 「沐浴のときの決まり文句」を1つ作ると良いですよ
とよくお伝えしています。
沐浴を心地よくする3つのポイント
ここからは、実際にご家庭で意識しやすいポイントを3つにしぼってお伝えします。
①温度と準備を先に整える
沐浴前に、次の3つをチェックしておくと、あわてず、ゆっくり関われます。
- お湯:38〜40℃くらいになっているか
- 室温:24〜26℃くらいか、赤ちゃんが寒そうでないか
- バスタオル・服・おむつ・保湿剤:手の届く位置にあるか
沐浴のあいだに何度も移動しなくて済むことが、赤ちゃんの安心につながります。
「始める前に、自分が深呼吸できているか」も、こっそりチェックしてみてください。
②手のひらでやさしく包む
赤ちゃんの皮膚は、大人よりも薄く、とてもデリケートです。
- ゴシゴシこするより、手のひら全体でなでる
- スポンジよりも、素手で包み込むように洗う
ほうが、皮膚のバリア機能を守りやすいと言われています。
ポイントは「早く洗う」より「ゆっくり触れる」こと。
作業療法士として赤ちゃんの様子を見ていると
- 早く終わらせようとして動きが速くなると、赤ちゃんも落ち着かない
- ゆっくり一定のリズムで触れられると、表情がふわっとゆるむ
ことがとても多いです。
③上がったあとは「保湿」と「一息つく時間」
沐浴が終わったら、10分以内に保湿をすることで、
アトピー性皮膚炎のリスクが下がるという報告もあります。
- タオルで押さえるように水気をとる
- 保湿剤をやさしく全身になじませる
ここまでできたら、親御さんも一度深呼吸を。
「今日もよく頑張ったね」と赤ちゃんだけでなく、自分にも声をかけてあげてください。その一言が、明日も沐浴に向き合うエネルギーになります。
よくあるお悩みと作業療法士としてのひとこと
「毎回泣いてしまって、沐浴がしんどいです」
泣く=失敗ではありません。
- 温度
- 明るさ
- 時間帯
などを少しずつ変えながら、「この子が比較的落ち着きやすいパターン」を一緒に探していくイメージで大丈夫です。
私は訪問先でも、「この時間帯だと機嫌がいいですね」「少し部屋を暖かくしたら、泣く時間が短くなりましたね」と、変化に気づいて伝えることを大切にしています。
「うまくできている自信がありません」
沐浴はテストではないので、満点を取る必要はありません。
- 赤ちゃんが安全であること
- お湯の温度が極端でないこと
- 終わったあとに、抱っこしてホッとできること
この3つが守れていれば、**それだけで十分「合格」**だと、私は思っています。
さいごに
沐浴は、毎日の中で「こなさなきゃいけない家事」のように感じられがちですが、
本当は、
- 赤ちゃんが「世界はあたたかい場所だ」と知る時間
- 親が「わたし、ちゃんとお世話できているかも」と少し自信を持てる時間
でもあります。
出産や育児の現場を見てきた作業療法士として、私がいちばん伝えたいのは、
- 泣いてもOK
- 完璧じゃなくてOK
- 「今日はここまでできた」でOK
ということです。
今日の沐浴がうまくいったかどうかよりも「赤ちゃんと、少しでも心地よい時間を共有できたかな」という視点を、そっと持ってみてください。
その小さな積み重ねが、赤ちゃんの安心と、あなたの自信を、確実に育てていきます。
参考文献
- 日本小児科学会(2021)新生児の入浴・スキンケアガイドライン
- 厚生労働省(2021)新生児ケア・授乳支援マニュアル
- Karolinska Institute (2020). Oxytocin and Parent-Infant Skin Contact Study
- 東京大学 医学部(2020)照明環境と新生児の自律神経反応
- 国立成育医療研究センター(2022)母親の声刺激と乳児ストレス反応研究
- 日本皮膚科学会(2021)乳児期スキンケアと皮膚バリア機能研究
- JAMA Pediatrics (2019). Early Emollient Use and Atopic Dermatitis Prevention


コメント