はじめに
やらなきゃいけないのに、手が止まる。
何も起きていないのに、胸だけがざわざわして落ち着かない。
そんなとき、心はたいてい 「今ここ」ではなく、まだ起きていない未来 に飛んでいます。
心理学ではこれを 予期不安 と呼び、「まだ起きていない出来事を、頭の中で何度もシミュレーションしてしまう状態」 と定義されています(日本心理学会, 2021)。
私も、仕事やプライベートで大事な予定がある前ほど、
- 「失敗したらどうしよう」
- 「嫌われたらどうしよう」
- 「間に合わなかったら終わりだ」
と、未来の最悪パターンばかり考えて、目の前の小さな一歩が全然踏み出せなくなることがありました。
そんなとき、メンタルケアやマインドフルネスの研究を読み進めていくと、共通していたのがこの考え方でした。
不安をゼロにするのではなく、今ここに戻る技術を持つことが大事
この記事では、
- なぜ焦りや不安が強くなるのか
- 今ここに戻ることで何が変わるのか
- 今日からできるマインドリセット3ステップ
を、できるだけやさしい言葉でお話ししていきます。
焦りや不安は「未来に飛んだ心のアラーム」
まず最初に、覚えておいてほしいことがあります。
焦りや不安は「弱さの証拠」ではなく、未来を真剣に考えているサイン だということ。
日本心理学会の報告でも、予期不安は「危険を回避しようとする心の仕組み」だと説明されています(2021)。
ただ、このアラームが強くなりすぎると、
- 目の前の作業に手がつかない
- SNSや動画で現実逃避してしまう
- 寝る前にだけ不安が一気に押し寄せてくる
といった状態になりやすくなります。
ここで大事なのは、不安を「消そう」とするのではなく、「今、私は未来に飛んでいるんだな」と気づき、今この瞬間に戻る こと。
そのための具体的な方法が、これから紹介する マインドリセットの3ステップ です。
STEP1:呼吸に戻る──息の長さで心を整える
焦りや不安を感じるとき、私たちの呼吸はほぼ確実に 浅く・速く なっています。
これは、危険から身を守るために働く交感神経が優位になっているサインです。
ハーバード大学の研究では、
- ゆっくりとした腹式呼吸を1分続けるだけで
- 心拍数が安定し
- 不安を司る扁桃体の活動が落ち着く
ことが示されています(Harvard Health, 2019)。
やり方:4−6呼吸
- 鼻から4秒かけて、息を吸う
- お腹がふくらむのを感じながら、静かに吸います。
- お腹がふくらむのを感じながら、静かに吸います。
- 1秒だけ、息を止める
- 苦しくない範囲で、ふっと「間」を作るイメージ。
- 苦しくない範囲で、ふっと「間」を作るイメージ。
- 口から6秒かけて、ゆっくり息を吐く
- 「ふぅ〜」でも「はぁ〜」でもOK。
- 肩とお腹の力を少しずつ抜きながら吐いていきます。
- 「ふぅ〜」でも「はぁ〜」でもOK。
これを 3〜5回繰り返すだけ で大丈夫です。
ポイントは、
- 吸う時間より 吐く時間を長くする
- 「上手にやろう」としない(雑でもOK)
の2つだけ。
呼吸=心のリモコン
だと思って、焦りを感じたときの 最初の一手 にしてみてください。
STEP2:注意を「今」に戻す──5−4−3−2−1法
呼吸が少し落ち着いてきたら、次は「意識の場所」を未来から 今この瞬間 に戻していきます。
スタンフォード大学のマインドフルネス研究では、五感に注意を向けることで、不安レベルが平均30%低下したと報告されています(Stanford Mindfulness Center, 2018)。
ここで使えるのが、シンプルで力強い 5−4−3−2−1法 です。
5−4−3−2−1法の手順
ゆっくり周りを見回しながら、心の中で数えていきます。
- 見えるものを5つ挙げる
- 例:「カーテン、机、パソコン、マグカップ、床」
- 例:「カーテン、机、パソコン、マグカップ、床」
- 触れられるものを4つ挙げる
- 例:「椅子の背もたれ、服の布、足の裏と床の感覚、キーボード」
- 例:「椅子の背もたれ、服の布、足の裏と床の感覚、キーボード」
- 聞こえる音を3つ挙げる
- 例:「エアコンの音、外の車の音、冷蔵庫のモーター音」
- 例:「エアコンの音、外の車の音、冷蔵庫のモーター音」
- 匂いを2つ挙げる
- 例:「部屋の匂い、飲み物の匂い」
- 例:「部屋の匂い、飲み物の匂い」
- 味を1つ挙げる
- 例:「口の中の味、さっき飲んだお茶の余韻」
- 例:「口の中の味、さっき飲んだお茶の余韻」
全部を完璧にやろうとしなくて大丈夫です。
どれか一部だけでも構いません。
大切なのは、
「頭の中の未来」ではなく、
今ここで起きている感覚 に注意を向けること。
これを1〜2分行うだけで、
思考の暴走列車が少しずつスピードダウンしていきます。
STEP3:受け入れる──不安を消そうとしない
ここが、いちばん大事で、でも少し難しいポイントです。
焦っているときほど、
- 「早く落ち着かなきゃ」
- 「こんなに不安なのはおかしい」
- 「メンタル弱すぎる…」
と、自分の感情を 否定したくなる ことが多いと思います。
しかし、心理学では、感情を押さえ込もうとすることを 感情回避 と呼び、抑えようとするほど、逆に苦しみが大きくなることが分かっています(Hayes, 2011, ACT理論)。
試してほしい言葉がけ
不安や焦りを感じたとき、心の中で、そっとこう言ってみてください。
- 「あ、いま私は不安を感じているんだな」
- 「焦ってるな。でも、それだけ真剣なんだよな」
- 「怖いと感じている自分がいる」
ポイントは、「不安=悪いもの」ではなく、“ただそこにある状態”として認めること。
国立精神・神経医療研究センターの研究でも、感情を「あるものとして認める」練習をした人は、前頭前野(考えを整理する部位)がよく働き、扁桃体の過剰な反応が落ち着いていくことが示されています(2020)。
不安を消すのではなく、「不安を感じている自分ごと、今ここにいていい」と許可を出してあげる。
それが、マインドリセットの 最後の仕上げ になります。
日常に取り入れる「30秒マインドリセット」
ここまでの3ステップを、全部まとめてやろうとすると、「時間がない」「続かない」と感じる日もあると思います。
なので、おすすめは 短いバージョン です。
こんな場面で使ってみてください
- 仕事や家事を始める前に、 呼吸だけ3回
- 電車や車の中で、 5−4−3−2−1法を1周だけ
- 寝る前、布団の中で、
「今日も不安あったな。でもここまで来れた」と
自分にひと言かけてあげる
完璧じゃなくていいし、忘れてしまう日があっても大丈夫です。
大事なのは、焦りや不安を感じたときに「自分の元に戻る道」を、少しずつ太くしていくこと。
それが積み重なるほど、
- 焦りが長引きにくくなる
- 不安になっても「戻れる場所」がある感覚が育つ
そんな変化が、少しずつ生まれていきます。
さいごに
焦りや不安を感じるとき私たちはつい、
- 「こんなに不安なのはおかしい」
- 「早く消さなきゃ」
と、自分を責めてしまいがちです。
でも、焦りは 未来を大事に思っている証拠 であり、不安は 自分や大切な人を守ろうとする心のサイン です。
そのサインに気づいたら、
- 呼吸に戻る(吸う4秒・吐く6秒)
- 五感に戻る(5−4−3−2−1法)
- 感情を否定せず「いま不安なんだね」と認める
この3つを、できる範囲でやってみてください。
「不安になっても、私は呼吸と五感で戻ってこられる」そう感じられるようになると、不安そのものへの怖さも、少しずつ小さくなっていきます。
焦りをゼロにする必要はありません。
焦りや不安が出てきたときに、自分の元へ戻る練習を続けること。
それだけでも、明日の心の負担は、きっと少し軽くなります。
参考文献
- Harvard Health Publishing (2019). Breathing for Calm: How Slow Breathing Regulates the Brain.
- Stanford Mindfulness Center (2018). Five-Sense Awareness and Anxiety Reduction Study.
- Hayes, S. C. (2011). Acceptance and Commitment Therapy: The Process and Practice of Mindful Change.
- 国立精神・神経医療研究センター(2020)マインドフルネスによる情動調整の神経メカニズム
- 日本心理学会(2021)予期不安と注意制御の関係に関する研究


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