はじめに
作業療法士として、産後のママや働きながら子育てをしている方とお話ししていると、よくこんな言葉を聞きます。
- 子どもがほしいけれど、仕事をどう続けたらいいか分からない
- キャリアも大事。でも妊娠・出産のタイミングって、いつが正解なのか不安
- 今の職場のままで、出産後も働けるのかな
正直に言うと、これは私自身も何度も考えてきたテーマです。
「今は仕事に集中したい。でも、いつか子どももほしい。」 頭の中で何度もシミュレーションをくり返しながら、将来のことを考えてきました。
そこで、医療・心理・労働分野の資料を改めて読み込んでみると、 妊娠・出産とキャリアは「どちらかをあきらめる」のではなく、「事前の準備」と「考え方」で両立しやすくできる ことが見えてきました。
この記事では、
- 日本のデータから見る、妊娠・出産と仕事の現実
- 働き続けるために、今から見ておきたいポイント
- 将来の妊娠・出産を前提にしたキャリア設計の考え方
を、エビデンスと作業療法士としての視点をまぜながら、できるだけ分かりやすくお話しします。
妊娠・出産とキャリアの「現実」を知っておく
まずは少しだけ、現実の数字を見てみます。
厚生労働省などの調査では、第1子の出産をきっかけに仕事をやめる女性は、今も少なくないことが報告されています。
一方で、
- 産休・育休制度がしっかりしている
- 時短勤務など柔軟な働き方ができる
- 職場に子育て中の先輩がいる
こうした条件がそろっている職場ほど、出産後も仕事を続けている人が多いことも分かっています。
つまり、
妊娠・出産でキャリアが止まるかどうかは、「個人の根性」だけでなく、「職場の環境」と「事前の準備」によって大きく変わる
ということです。
作業療法士としても、同じ「出産を経験した人」でも、
- 事前に働き方を考えていた人
- 職場と早めに相談していた人
ほど、産後のストレスが少ない印象があります。
働き続けやすい職場かどうかを今から見ておく
将来の妊娠・出産を考えるなら、「今の職場は、出産後も働きやすい場所か」を早めにチェックしておくことが、とても大切です。
ポイントとしては、次のようなところを静かに観察してみてください。
① 育休や時短勤務の実績があるか
- 実際に育休から戻っている人がいるか
- 時短勤務やフレックスを使っている人がいるか
制度として紙に書いてあるだけでなく、「使えている人がいるか」が重要です。
② 男性社員も育休を取っているか
内閣府などの調査では、男性育休の取得率が高い職場ほど、女性の就業継続率も高い傾向があることが報告されています。
「男女ともに、子育てをしながら働くのが当たり前」という空気があるかは、長く働くうえで大きな安心材料になります。
③ 子育て中の先輩の様子を見てみる
- 子育て中の人が、疲れ切った顔で無理をしていないか
- 「休みを取りづらい雰囲気」が強くないか
- 逆に、周りが自然にフォローしているか
こうした「空気感」は、制度の紙だけでは分かりません。
作業療法の現場でも、制度は同じでも、「言い出しにくい空気」が強い職場ほど、心身の不調を抱えやすいという話をよく聞きます。
今のうちから、「この職場で子どもができたら、どんな1日になりそうかな」と、静かにイメージしてみてください。
キャリアを3つのステージで考えてみる
将来の妊娠・出産を見据える時、「いつ産むか」を先に決め切るよりも、「どんな準備をしておくか」を考える方が、現実的で心にもやさしいと感じています。
ここでは、キャリアを大まかに3つのステージに分けて考えてみます。
年齢はあくまで目安なので、自分の状況に合わせて読み替えてください。
① 土台をつくる時期
だいたい20代〜30代前半くらいのイメージです。
この時期は、
- 資格
- 実務経験
- ポートフォリオ(成果の記録)
など、どこに行っても使える「自分の道具」を増やすことが大切です。
JILPT(労働政策研究・研修機構)の調査でも、
- 専門スキル
- 資格
- 過去の職務経験
を持っている人ほど、出産などで一度キャリアが中断しても、再就職しやすいことが報告されています。
私自身も、「一生同じ職場にいるとは限らない」と思い、勉強や別分野の経験を少しずつ積み上げてきました。そのおかげで、働き方を変えたい時にも、選択肢が増えたと感じています。
② 働き方を柔軟にできる形にしていく時期
少しずつ、
- 在宅勤務ができるか
- 業務委託やパートなど、働き方の選択肢があるか
- 副業や複業で収入源を分けられるか
といった、「働き方の幅」を広げておくと、妊娠・出産のタイミングでの負担がぐっと減ります。
とくに最近は、
- オンラインでできる仕事
- 時間と場所を選びやすい仕事
が増えているので、興味のある分野があれば、小さくチャレンジしてみるのも良い準備になります。
③ ライフイベントを前提に、キャリアを組み立て直す時期
出産が近づいてきた時、あるいは実際に出産したあとには、
- 一度立ち止まって、今後の働き方を見直す
- 学び直しや新しいスキル習得を考える
- 無理のないペースで仕事を続ける方法を探す
といった「再設計」が必要になります。
ここで大事なのは、
「前と同じ働き方に戻ること」だけをゴールにしないこと。
作業療法士として見ていても、「前と同じように働かなきゃ」と自分を追い込んでしまう人ほど、心や体が疲れ切ってしまうことが多いと感じます。
むしろ、
- 今の自分と家族に合った働き方は何か
- 収入と健康のバランスをどう取りたいか
を、夫婦で話しながら少しずつ調整していくことが、長く働き続けるコツです。
妊娠・出産は「完全には計画できないもの」という前提を持つ
ここが、とても大事なポイントです。
妊娠・出産は、
- 年齢
- 体調
- パートナーの状況
- 仕事のタイミング
など、たくさんの要素がからみ合うため、どれだけ計画しても、思い通りにいかないことがあります。
キャリア心理学では、こうした「予定通りにはいかない」ことも前提にして 偶然の出来事を前向きに活かしていく考え方が大事だと言われています。
これは、アメリカのキャリア理論で「プランド・ハップンスタンス理論」として提案されている考え方です。
簡単に言うと、
- 完璧な計画を1本決めるのではなく
- いくつかのパターンを持って
- 起こった出来事に合わせて、柔軟に進路を調整する
という考え方です。
例えば、
- 「この年までに絶対に妊娠」と決めてしまう
のではなく、 - 「もしこの数年で妊娠した場合の働き方」
- 「予定より少し先になった場合の働き方」
など、いくつかのルートをゆるく用意しておくイメージです。
そうすることで、
- 思ったタイミングで妊娠できなかった
- 予想外に早く授かった
どちらの場合でも、自分を強く責めずに、次の一歩を考えやすくなります。
作業療法士として見てきた「心と体のバランス」の大切さ
最後に、少しだけ現場で感じてきたことをお伝えさせてください。
産後や育児中の方と関わっていると、
- もっと早く準備しておけばよかった
- 自分だけがうまくできていない気がする
と自分を責めてしまう人が、とても多いです。
でも実際には、
- 頑張りすぎて体を壊してしまう人
- 無理をして心のエネルギーが切れてしまう人
を、たくさん見てきました。
だからこそ、キャリア設計の中に「自分の心と体の余白」をきちんと入れてほしいと強く思っています。
- 少し休んでも戻れるスキルを育てておく
- 頼れる人や相談できる場所を今から増やしておく
- 仕事も家庭も「1人で全部やらない」と最初から決めておく
これらは、どれも立派なキャリアの準備です。
さいごに
ここまで、将来の妊娠・出産を見据えたキャリア設計についてお話ししてきました。
まとめると、
- 妊娠・出産とキャリアの両立は、「根性」より「環境」と「準備」がカギ
- 今の職場が、出産後も働きやすい場所かを早めに観察しておくことが大切
- キャリアは1本の道ではなく、いくつかのルートを持って柔軟に考えると心が楽になる
そして何より、出産をキャリアの終わりと考えるのではなく、「形を変えながら続けていくポイント」として捉えることが、とても大切だと思っています。
作業療法士として、そして同じように将来を考える1人として、あなたにはぜひ、
- 自分の可能性を小さく見積もりすぎないこと
- 完璧なタイミングや完璧な計画を求めすぎないこと
を、大事にしてほしいなと感じています。
どんな選択をしても、やり直しや方向転換はいつでもできます。
今できる小さな準備を、今日の自分のペースで進めていきましょう。
参考文献
- 厚生労働省関係資料および第1子出産前後の女性就業に関する分析
- 独立行政法人 労働政策研究・研修機構 JILPT 女性の就業継続とキャリア形成に関する調査
- 国立女性教育会館 女性のキャリアとライフイベントに関する報告書
- 内閣府 男女共同参画 白書および男性育休・就業継続に関する統計
- Krumboltz, J. D. (2009). The Happenstance Learning Theory of Career Counseling. Journal of Career Assessment


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