はじめに
失敗したとき、うまくいかなかったとき、真っ先にこう思ってしまうことはありませんか?
- 「やっぱり自分なんてダメだ」
- 「みんなできてるのに、自分だけできない」
- 「あんなこと言うなんて、最低だ…」
本当は優しくなりたいのにいちばん厳しい言葉を投げているのが 自分自身 だったりします。
作業療法士としてお話をうかがっていても、
- 失敗すると、自分を罰するように責め続けてしまう
- 褒められても「たまたまだ」と受け取れない
- 人に迷惑をかけるくらいなら、自分が全部悪いことにしてしまう
そんな「自分責めのクセ」に苦しんでいる方は、とても多いです。
ここで、まずお伝えしたいことがあります。
「自分を責めてしまうのは、性格が悪いからでも、心が弱いからでもない」ということです。
実は、自分を責めるクセには、脳の防衛反応 という、ちゃんとした仕組みがあります。
この記事では、
- なぜ私たちはこんなに自分を責めてしまうのか
- その背景にある「脳の防衛システム」の働き
- 責めるモードから「自分を支えるモード」に切り替える3ステップ
を、できるだけやさしく解説していきます。
自己批判は「ダメな性格」ではなく、脳の防衛反応
脳は「先に自分を責めることで、攻撃から身を守ろう」とする
スタンフォード大学の心理学研究(Gilbert, 2010)では、自己批判が強い人の脳を調べると、
- 扁桃体(へんとうたい) …危険や恐怖に反応する部位
が強く活動していることが分かっています。
扁桃体は、本来こんな役割を持っています。
- 敵や危険をいち早く察知する
- 「戦う/逃げる」を瞬時に判断する
- 身を守るための警報を鳴らす
ところが、過去にこんな経験があると…
- 失敗したとき、強く怒られた・否定された
- うまくいかなかったとき、「なんでこんなこともできないの」と責められた
- 間違えた自分を笑われた、嫌われた
その記憶が、脳の中で「危険」と結びつきます。
すると扁桃体は、こう学習してしまうんです。
「外から責められる前に、自分で自分を責めておけば、 ダメージが少なくてすむかもしれない」
このような自己批判のスタイルを、心理学では 「自己防衛的自己批判(Self-protective self-criticism)」 と呼びます。
つまり、自分を責めるクセは、「自分を守ろう」とした結果、身についた防衛反応とも言えるのです。
「自分は弱いから」「性格が悪いから」ではなく、過去の環境の中で生き延びるために、脳が覚えてしまったやり方 なんですね。
自己批判は「守り」でもあり、「痛み」を増やすものでもある
自分を責めると、脳は「ケガをした」ときと同じ反応をする
ハーバード大学医学部の脳画像研究(Longe et al., 2010)では、自己批判をしているときの脳の活動を調べたところ、
- 前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ)
- 島皮質(とうひしつ)
といった領域が強く反応していることが分かりました。
これらの部位は、
- 身体的な痛み
- つねられた・切り傷を負った
といったときにも活性化する場所です。
つまり、自分を責めるたびに、脳は「痛み」を感じているということになります。
さらに、この状態が続くと…
- ストレスホルモン(コルチゾール)が高い状態が続く
- 心身が「戦闘モード」から戻れなくなる
- 不安・落ち込み・疲労感・自尊感情の低下につながる
といった影響が出やすくなることも、国立精神・神経医療研究センターの研究で報告されています(2020)。
守るために始まった自己批判が、いつの間にか自分を傷つける刃になってしまう。
これが、「自分を責める癖」がつらくなる理由のひとつです。
STEP1:まず「いま自分を責めている」と気づく
自分を責めるクセをゆるめるための、いちばん最初のステップは、「あ、いま自分を責めているな」と気づくことです。
こんな言葉、心の中でよく流れていませんか?
- 「また失敗した。ほんとダメ」
- 「どうしてこんなこともできないの」
- 「あのとき、あんなこと言うなんて最低」
- 「もっと頑張らなきゃ価値がない」
こんな言葉が頭の中で流れ始めたら、心の中でこうつぶやいてみてください。
・「あ、いま 自己批判モード に入ってるな」
ポイントは、
- 「私はダメだ」と一体化するのではなく
- 「自己批判している自分がいる」と、
自分と自己批判を少し切り離して見ること
です。
「責めている自分」をいったん “観察者の立場” で捉え直せると、そこが小さなブレーキポイントになります。
STEP2:「責め言葉」の奥にある本当の気持ちを探してみる
自己批判は、たいてい 「守りたいもの」や「大事にしたい価値」 の裏返しです。
例えば…(ⓑ=before ⓐ=after)
ⓑ「なんでこんな簡単なこともできないの!」
→ 本当は
ⓐ「ちゃんとやりたい」「認められたい」「信頼されたい」
ⓑ「また人に迷惑かけた。最低だ」
→ 本当は
ⓐ「人に負担をかけたくない」「大事な人を傷つけたくない」
ⓑ「私なんて、価値がない」
→ 本当は
ⓐ「役に立ちたい」「愛されたい」「ここにいていいと思いたい」
このように、激しい「責め言葉」の奥には、とてもまっとうで、まじめで、優しい願い が隠れていることが多いです。
自分に問いかけてみる質問
自分を責めているとき、こんなふうに聞いてみてください。
- 「いまこの自己批判は、何を守ろうとしているんだろう?」
- 「本当は、どうありたいから、こんなに苦しくなっているんだろう?」
すると、
- 「本当は、ちゃんとやりたい」
- 「本当は、嫌われたくない」
- 「本当は、大事にされたい」
そんな 素直な気持ち が、少しずつ見えてくるかもしれません。
その瞬間、自分を責める声 = 「厄介な敵」ではなく、「不器用な守衛さん」として見えてくることがあります。
STEP3:責めるモードから「支えるモード」へ切り替える
ここで役に立つのが、近年注目されている セルフ・コンパッション(Self-compassion:自分への思いやり) の考え方です。
スタンフォード大学やウィスコンシン大学の臨床試験では、セルフ・コンパッションを身につけた人は、
- 自己批判が減少
- ストレスホルモンが約23〜35%低下
といった変化が見られたと報告されています(Neff, 2011)。
セルフ・コンパッションの3ステップ
①気づく
「あ、いま自分を責めているな」「それだけ、うまくやりたかったんだよね」と、「責め」に気づきつつ、その裏側の願いも意識します。
②認める
「ここまで頑張ってきたからこそ、こんなに苦しいんだよね」「失敗が怖いのは、それだけ長く我慢してきた証拠だよね」と、責めている自分=必死に生きてきた証拠 と認めてあげます。
③支える(声をかけ直す)
責め言葉の代わりに、「支える言葉」を自分にかけてみます。
例えば…
- 「もう十分責めてきたよね。今日はここまでにしよう」
- 「完璧じゃなくていい。次に活かせれば、それで十分」
- 「いま一番必要なのは、もっと頑張ることじゃなくて、ひと息つくことかもしれない」
これだけでも、脳の防衛システムは 「あ、もう攻撃モードに入らなくていいんだ」 と学習していきます。
Harvard Health Publishing(2020)の報告では、セルフ・コンパッションの練習を続けた人の脳では、
- 前頭前野(冷静さや判断を司る部分)の働きが高まり
- 扁桃体(不安や恐怖に反応する部分)の過活動が落ち着いていく
といった変化も見られています。
日常生活での取り入れ方 作業療法士としての視点
「自分を責めるクセ」をいきなりゼロにする必要はありません。
大事なのは、「責め始めたことに気づく速度」と「支えるモードに切り替える回数」を少しずつ増やしていくことです。
①1日の中で「責めた瞬間」を1回だけ振り返る
夜寝る前などに、
- 今日いちばん自分を責めた瞬間はどこだったかな?
- そのとき、どんな言葉を自分に投げていたかな?
と、1場面だけ思い出してみます。
そして、
「そのとき、本当は何を守ろうとしていたんだろう?」
と、自分に問いかけてみてください。
- 認められたかった
- ちゃんとした人でいたかった
- 迷惑をかけたくなかった
など、「本音の願い」が見つかったら、その自分に対して ひと言だけ、優しい言葉を足して みます。
「そう思うくらい、大事にしたいものがあるんだよね。よく頑張ってたね」
それだけでも、脳は少しずつ 「責め=安全」「思いやり=もっと安全」 と学び直していきます。
②合図のフレーズを決めておく
自己批判が始まったときの ストッパーとなる言葉 を、あらかじめ決めておくのもおすすめです。
例えば…
- 「ストップ、自分責めモード」
- 「いまは守りスイッチが入ってるだけ」
- 「責めるより、支えるを選んでみよう」
など、自分がしっくりくる言葉でOKです。
「あ、自分責めが始まった」 → 「じゃあ、いつものフレーズを思い出そう」
この 小さなルーティン が、少しずつ「新しい反応パターン」を作ってくれます。
③どうしてもしんどいときは、専門家の力を借りてOK
長い間、自分を責め続けてきた人ほど、
- 一人で優しい言葉をかけるのが難しい
- そもそも「優しくされること」に慣れていない
ということもよくあります。
その場合は、
- カウンセラー
- 心療内科・精神科
- 信頼できる支援者
など、外側の「安全基地」 を借りながら、少しずつ「責めなくても大丈夫」という経験を積み重ねていくのも、とても大切です。
さいごに
「自分を責める癖」は、あなたがダメだからではありません。
むしろ、必死に生き延びようとしてきた「脳の防衛反応」 です。
- 怒られる前に自分を責めることで、ダメージを減らそうとした
- 否定されるくらいなら、自分から先に自分を否定しておこうとした
- 傷つきたくない、見捨てられたくない、その一心で頑張ってきた
そんな「昔の自分」が、いまもずっと、あなたを守ろうとしてくれているのかもしれません。
次に、自分を責めそうになったとき、こんなふうに心の中でつぶやいてみてください。
「ここまで守ってくれてありがとう。
でも、これからは 責めるより支える方法 も、少しずつ一緒に覚えていこうね」
責める自分を消す必要はありません。
その役割を、「攻撃係」から「応援係」へ少しずつ変えていくこと。
それが、「脳の防衛反応」とうまく付き合いながら、自分と仲直りしていく、一歩目になるはずです。
参考文献
- Gilbert, P. (2010). Compassion Focused Therapy: Distinctive Features. Stanford University Press.
- Longe, O. et al. (2010). Self-criticism and neural correlates of pain: An fMRI study. Harvard Medical School.
- Neff, K. D. (2011). Self-Compassion: The Proven Power of Being Kind to Yourself.
- 国立精神・神経医療研究センター(2020)自己批判と情動調整の神経基盤に関する研究
- Harvard Health Publishing (2020). How Self-compassion Changes the Brain.


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