はじめに
失敗したとき、ついこんなふうに考えてしまうことはありませんか?
- 「やっぱり自分なんてダメだ」
- 「またミスした。もう終わりだ…」
- 「どうせうまくいかないに決まってる」
頭の中でネガティブなセリフが自動再生されて、心がどんどん重たくなっていく。
止めたいのに止まらないこの連鎖は、性格の問題でも、意志が弱いからでもありません。
作業療法士としてお話を聞いていても、
- 仕事や育児でちょっとつまずくと、自分を全否定してしまう
- 「失敗=人として価値がない」に直結してしまう
- 過去の失敗を何度も思い出して、未来まで悲観してしまう
こんな「思考のクセ」に苦しんでいる方は本当に多いです。
そこで役に立つのが、今回のテーマである「ABC理論」 という心理学のフレームです。
この記事では、
- ABC理論ってそもそも何?
- どう使うとネガティブ思考が整理しやすくなるのか
- 日常生活で実際に使うときのコツ
を、できるだけやさしい言葉でお伝えします。
「自分責めループ」から一歩外に出るための”心の見取り図” として、ぜひ使ってみてください。
ABC理論とは?──「出来事」ではなく「解釈」が心を決める
ABC理論は、心理学者 アルバート・エリス が提唱した考え方で、認知行動療法(CBT)の基礎になっている理論のひとつです。
ポイントはとてもシンプルです。
私たちを苦しめているのは「出来事そのもの」ではなく「それをどう解釈したか(=思考・信念)」という考え方です。
ABCの意味
- A:Activating event(出来事)
実際に起こったこと・きっかけ - B:Belief(信念・考え方)
その出来事をどう受け取ったか、どんな意味づけをしたか - C:Consequence(結果)
その結果として生まれた「感情」や「行動」
心の中では、常にこの順番で動きが起きています。
A:出来事
B:解釈・思考
C:感情・行動
ここで大事なのは、A(出来事)がC(感情)を決めているわけではない という点です。
間に入っている B(考え方・捉え方) が、感情の色や強さを大きく左右している、というのがABC理論の核心です。
具体例で考えてみる──上司に注意されたとき
では、実際の場面で考えてみましょう。
シチュエーション
職場で、上司にこう言われたとします。
「この資料、ちょっとミス多いね」
これをABCで分けると…
A(出来事)
上司に「資料のミス」を指摘された
ここまでは、ただの事実です。
しかし、ここからの B(解釈) が人によって大きく変わります。
パターン①:ネガティブスパイラルにつながる解釈
B(考え)
「自分は無能だ」
「また信頼を失った。きっともうダメだ」
C(結果)
落ち込んで何も手につかない
上司の顔を見るのが怖くなる
さらにミスが増え、自己嫌悪が強くなる
これは、よくある ネガティブスパイラル です。
パターン②:成長につながる解釈
同じ A(出来事) でも、
B(考え方) をこう解釈したらどうでしょう?
B(考え)
「指摘してもらえたから、次に活かせるチャンスだ」
「たしかにミスはあった。じゃあ、どこを改善しよう?」
C(結果)
落ち込みはするが、改善点を冷静に探せる
次からのチェック体制を工夫する
上司との会話で、「次はこうしてみます」と前向きに話せる
同じ出来事でも、Bが変わることでCはまったく違うものになる ことが分かります。
つまり、「私たちの感情は、A(出来事)そのものではなく、B(捉え方)に強く影響されている」ということなんです。
STEP1:A・B・Cを分けてみる
ネガティブ思考を切り替える最初の一歩は、「いま何がAで、何がBで、何がCなのか」を分けてみることです。
具体的なやり方(紙かスマホメモに書くのがおすすめ)
- A(出来事)
- 何が起きた?
- どんな状況だった?(時間・場所・相手など)
- 何が起きた?
- B(そのとき浮かんだ考え)
- 「頭に浮かんだ言葉」をそのまま書く
- 〜と思った/〜に違いない という形でOK
- 「頭に浮かんだ言葉」をそのまま書く
- C(その結果の感情・行動)
- どんな気持ちになった?(怒り・不安・悲しみ・恥ずかしさ…)
- その後、どんな行動をとった?(黙り込んだ・逃げた・投げ出した など)
- どんな気持ちになった?(怒り・不安・悲しみ・恥ずかしさ…)
例
- A:友だちからのLINEの返信が半日以上こない
- B:「嫌われたかもしれない」「きっと変なこと言った」
- C:そわそわして他のことに集中できない/落ち込む
こうして書いてみるだけでも、「あ、自分は出来事そのものより、こう解釈したことで苦しくなっていたんだな」と、少し俯瞰して見られるようになります。
STEP2:B(考え)をD(反論)してみる
ABC理論には、続きがあります。
B(Belief:信念・考え)に対して、D(Dispute:反論・問い直し) を行うステップです。
ネガティブ思考の多くは、
- 「〜に違いない」
- 「〜すべき / 〜でなければならない」
- 「一度失敗したら終わりだ」
といった、極端で現実的でないルール に基づいていることが多いです。
そこで役に立つのが、次の3つの質問です。
D:反論のための3つの質問
- 本当に、いつも・全部そうと言える?
- 「100%そうと言い切れる?例外はゼロ?」
- 「100%そうと言い切れる?例外はゼロ?」
- それを信じ続けることで、自分は楽になれている?
- 「役に立つ考え方? それとも自分を追い詰めている?」
- 「役に立つ考え方? それとも自分を追い詰めている?」
- もし友だちが同じ状況で悩んでいたら、何て声をかける?
- 自分にだけ厳しすぎない?
- 自分にだけ厳しすぎない?
これを紙に書きながら考えてみると、「あれ、意外と決めつけすぎてたかも」 と気づけることが多いです。
認知行動療法(CBT)の研究でも、こうした「認知の再検討(Dispute)」を行うことで、うつや不安の症状が軽くなることが報告されています。
STEP3:E=新しい考え方(Effective new belief)を育てる
D(反論)のあとに出てくるのが、E:Effective new belief(新しく、より役に立つ考え方)です。
ここで大事なのは、
- 「ポジティブすぎる言い換え」にする必要はない
- 現実的で、少しやわらかい視点にすること
です。
先ほどの例を使ってみる
A:上司に「この資料、ミス多いね」と言われた
B(元の考え)
「自分は無能だ。もう信用を失った」
ここにDの質問を当てはめてみます。
・本当に「無能」? これまでできたことは?
・本当に「もう信用ゼロ」? これまでの評価は?
・友だちが同じことで悩んでいたら、何て言う?
その上で出てきた、現実的でやさしめな考えが E です。
E(新しい考え方の例)
- 「ミスはあったけど、全部ダメというわけじゃない」
- 「悔しいけど、次にチェック方法を見直すチャンスかもしれない」
- 「完璧じゃなくても、少しずつ改善していけばいい」
この E を採用すると、
C(感情・行動) も自然と変わってきます。
- 感情:
- 「最悪」→「悔しいけど、まだやれることはある」に少し変わる
- 「最悪」→「悔しいけど、まだやれることはある」に少し変わる
- 行動:
- 落ち込み続ける → 改善点をメモする/次の資料で工夫してみる
- 落ち込み続ける → 改善点をメモする/次の資料で工夫してみる
スタンフォード大学の研究でも、こうした「より柔らかく現実的な認知」を育てることで、前頭前野(冷静な判断を司る部分)が活性化し、ストレスホルモンが減少することが示されています。
日常生活での取り入れ方 作業療法士としての視点
ABC理論は、頭で理解するだけでなく、「小さく何度も使ってみる」ことで効いてきます。
①1日1回だけ「ABCメモ」を書いてみる
毎日じゃなくてもOKです。
- 今日は心がざわついた場面はどこだった?
- そのときのA・B・Cを、3行だけ書いてみる
たとえ週に1回でも、「出来事と考えと感情を分けて見る」練習を続けると、「あ、今Bが暴走してるな」と気づくスピードが少しずつ上がっていきます。
②ネガティブなBが出てきたときの「合図の言葉」を決めておく
例えば、
- 「はい、出ましたABCのB!」
- 「いまのは 思考 であって、現実そのものじゃない」
- 「その考え、本当に100%?」
といった 自分用の合図フレーズ を決めておくと、Bに気づいてD・Eに進みやすくなります。
③一人で難しいときは、他者の視点を借りる
Bの部分は、自分一人だと気づきにくい こともあります。
そんなときは、
- 信頼できる人に「AとCだけ」話してみる
- カウンセラーや支援者と一緒に、Bを言葉にしてみる
といった形で、「別の視点」 を借りるのも、とても有効です。
ABC理論は、「自分を責めないための視点の持ち方」として、対人支援の場でもよく使われている方法です。
さいごに
ネガティブ思考が止まらなくなるとき私たちはつい、
- 「出来事(A)が悪いからだ」
- 「こんなふうに考える自分がダメなんだ」
と、Aか自分そのものを責めてしまいがちです。
でもABC理論の視点に立つと、A(出来事)とC(感情)の間には、B(考え方・捉え方)が必ず挟まっているということが、だんだん見えてきます。
そして、
- Aを変えられない場面でも
- C(感情)を無理やり変えようとしなくても
B(解釈の仕方)を少しやわらかくする ことで、心の負担を軽くすることはできます。
次にネガティブ思考が暴走しそうになったら、心の中でそっとこうつぶやいてみてください。
・「これは”A→B→C”のうちの、いまBが暴走しているだけかもしれない」
・「E(新しい考え方)を、ひとつだけ探してみよう」
完璧にポジティブになる必要はありません。
「少しだけ現実的に・少しだけやさしく」考え直してみること。
その小さな積み重ねが、ネガティブ思考に飲み込まれない自分を育てていきます。
参考文献
- Ellis, A. (1962). Reason and Emotion in Psychotherapy.
- American Psychological Association (2018). Cognitive Behavioral Therapy Overview.
- Gross, J. J. (2015). Emotion Regulation and the Prefrontal Cortex. Stanford University.
- 国立精神・神経医療研究センター(2021)認知再構成法における脳活動の変化に関する研究


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