はじめに
・「嫌われたかも…」
・「失敗したら終わりだ」
・「きっとまたうまくいかない」
まだ何も起きていないのに、頭の中のストーリーだけがどんどんふくらんで、気づいたら心も体もぐったりしている。
そんなことはありませんか?
作業療法士としてお話を聞いていても、
- ちょっとした一言を、何時間も反芻してしまう
- まだ起きていない未来を想像して不安で眠れない
- 現実より「頭の中の想像」に苦しめられている
そんな方はとても多いです。
ここでポイントになるのが、「現実」より「思考」に苦しんでしまうことがあるという事実です。
そこで役に立つのが、今回のテーマ「メタ認知トレーニング」 です。
この記事では、
- メタ認知ってそもそも何なのか
- なぜ「思考=現実」になってしまうのか
- 思考と現実を分けるための3ステップ
を、できるだけやさしい言葉でまとめていきます。
「考えすぎてしんどい自分」と少し距離をとりたいときの、心の技術 として使ってみてください。
メタ認知とは?──自分の考えを一歩引いて眺める力
メタ認知 とは、かんたんに言うと「自分の考え方を、もう一人の自分が眺める力」です。
たとえば、
- 「私は今、嫌われたかもって考えているな」
- 「あ、また『どうせダメだ』って結論に飛んでるぞ」
といったふうに、考えそのものを客観視する視点 のことです。
イギリスの心理学者エイドリアン・ウェルズは、このメタ認知の力を高めることが、
- 不安障害
- うつ
- 強迫的な思考
などの改善に役立つと指摘しています。
ポイントは、「考えている自分」と「それを見ている自分」を分けるという視点を身につけること。
これができるようになると、
- 「考え=事実」ではなく、
- 「これは“頭の中の物語”なんだな」と気づけるようになり、
心の反応が少しずつ穏やかになっていきます。
思考と現実を混同すると何が起こるか
では、思考と現実がごちゃまぜになると、何が起こるでしょうか。
頭の中の「もしも」が、体にとっては「本当の危険」になる
たとえば…
- 「失敗したら終わりだ」と考える
- 「嫌われたらもう生きていけない」と感じる
現実にはまだ何も起きていないのに、そのイメージを強く信じてしまうと、脳の「危険センサー」である 扁桃体 が過剰に反応します。
その結果、
- 心拍数が上がる
- 呼吸が浅くなる
- 眠れない・集中できない
といった ストレス反応 が起きてきます。
オックスフォード大学などの研究でも、「思考をそのまま事実だとみなす人ほど、 扁桃体が過剰に反応し、ストレスホルモンが上がりやすい」ことが報告されています。
つまり、現実そのものではなく、「頭の中のストーリー」に体が反応していることが、とても多いのです。
ここに、「メタ認知」が入ってくる余地があります。
メタ認知トレーニングの3ステップ
ここからは、日常で使いやすい
3ステップのメタ認知トレーニング をご紹介します。
- Step1:気づく(Awareness)
- Step2:名前をつける(Labeling)
- Step3:書き出して眺める(Defusion/切り離し)
紙やスマホのメモを使うと、より効果的です。
STEP1:気づく──「今どんな考えに飲まれている?」と自問する
まずは、「今、自分はどんな考えにとらわれているんだろう?」と問いかけることから始めます。
たとえば、
- 「嫌われたかも」
- 「また失敗するに違いない」
- 「自分なんて価値がない」
など、頭の中で一番強く鳴っている“フレーズ”を探してみます。
ここでのポイントは、内容を正しいかどうか判定しないこと。
ただ、「あ、今こういう考えが流れているな」と気づくだけ でOKです。
この「気づき」の瞬間に、すでにメタ認知が働き始めています。
STEP2:名前をつける──思考にラベルを貼る
次に、その考え方に ラベル(名前) をつけてみます。
例:
- 「これは“嫌われ不安思考”だな」
- 「今、“失敗恐怖モード”に入っている」
- 「“完璧主義フィルター”が発動しているぞ」
名前の付け方は、かなり適当で大丈夫です。
むしろ、ちょっと笑えてくるくらいの名前でもOK。
大事なのは、「これは“私そのもの”ではなく、“思考のパターン”なんだ」と、切り分けてあげること。
感情を言語化すると扁桃体の活動が落ち着く、という研究があるように、思考にもラベルを貼ることで、脳が「一歩引いて状況を見るモード」に切り替わりやすくなります。
STEP3:書き出して眺める──事実と想像を分ける
最後に、その思考を紙やメモに 書き出してみる ステップです。
フォーマットはシンプルでOKです。
- 「今浮かんでいる考え」
- 例)「LINEが返ってこない=嫌われたに違いない」
- 例)「LINEが返ってこない=嫌われたに違いない」
- 「事実(現実に起きていること)」
- 例)「LINEの返信が半日来ていない、それだけ」
- 例)「LINEの返信が半日来ていない、それだけ」
- 「これは事実? それとも“予測・想像”?」
- 例)「嫌われたに違いない → 想像・予測」
- 例)「嫌われたに違いない → 想像・予測」
ここでの目的は、「考え=現実」というくっついた状態から、 「考え」と「現実」を切り離す(Defusion)こと
です。
紙に出してみると、
- 「現実には、まだそこまで起きていないな…」
- 「“〜に違いない”って、ほぼ全部想像だな」
と気づけることが多くなります。
スタンフォード大学の研究でも、この「書き出す」プロセスによって前頭前野(理性的な判断の司令塔)が活性化し、感情の整理が進むことが報告されています。
続けると何が変わる?──脳が「信じすぎない」回路を学習する
国立精神・神経医療研究センターの報告では、メタ認知トレーニングを行ったグループは、
- 2週間でストレス反応が約30%低下
- 自動的に浮かぶネガティブ思考の数が減少
といった変化が見られたとされています。
これは、「浮かんだ考えを、そのまま100%信じ込まない」
という脳の回路が、少しずつ強くなった結果と考えられます。
ポイントは、
- ネガティブ思考を「ゼロ」にすることではなく
- 「出てきても、飲み込まれすぎない自分」を育てること
です。
日常生活での取り入れ方 作業療法士としての視点
メタ認知トレーニングは、特別な時間をとらなくても、生活の中で少しずつ練習できます。
①1日の終わりに「今日いちばん気になった出来事」を1つだけ
- A(出来事)
- そのとき浮かんだ思考(B候補)
- そのときの感情
を、3行メモにしてみる。
そこから、
- 「あ、自分はこう解釈しやすいんだな」
- 「また“全部ダメ”って言いがちだな」
と自分のパターンを知る だけでも、大きな一歩です。
②ネガティブ思考が出てきたら「これは考えであって、現実じゃない」と一言添える
頭の中で不安が回り始めたら、その思考の後に、意識的に「…という“考え”が浮かんでいるだけ」と付け足してみてください。
例:
- 「嫌われたに違いない」
→ 「嫌われたに違いない“という考えが、今浮かんでいるだけ”」
この一言で、思考と自分の間に 1〜2ミリのすき間 が生まれます。
③一人で整理が難しいときは、他者の視点を借りる
メタ認知は、どうしても 「自分一人だと見えない部分」 が出てきます。
そんなときは、
- 信頼できる人に「事実だけ」話してみる
- 専門職(カウンセラーや医療職)と一緒に整理してみる
といった形で、外側からの視点を借りるのも、立派なメタ認知の一歩です。
さいごに
私たちはよく、
- 「現実がつらい」と感じているつもりで、
- 実は「頭の中のストーリー」に追い詰められている
ということがあります。
メタ認知トレーニングは、不安な現実を消すものではなく、「不安な思考」との距離を少しだけ広げる技術です。
次にネガティブな考えが浮かんだとき、心の中でこうつぶやいてみてください。
「それは“考え”であって、現実そのものじゃない」
そして、
- 今どんな考えにとらわれているか気づく
- その思考に名前をつける
- 書き出して「事実」と「想像」を分けてみる
この3つを、できる範囲で試してみてください。
考えを止める必要はありません。
ただ、「考えと現実を分けて見る練習」を重ねていくことで、「あ、今回は飲み込まれすぎずに済んだかも」という小さな変化が、必ず積み重なっていきます。
それが、思考に振り回されすぎない しなやかな心 を育てる土台になります。
参考文献
- Wells, A. (2000). Emotional Disorders and Metacognition: Innovative Cognitive Therapy.
- Garland, E. L. (2015). Cognitive Defusion and Stress Regulation.
- Lieberman, M. D. (2007). Putting Feelings into Words: Neural Bases of Affect Labeling.
- 国立精神・神経医療研究センター(2022)メタ認知訓練による情動調整機能の改善に関する研究


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