はじめに
作業療法士として、妊娠中や産後の方とお話ししていたとき
- 「出産の痛みがとにかく怖い」
- 「テレビで見た場面が頭から離れない」
- 「痛みに耐えられなかったらどうしよう」
という声を本当によく聞きます。
私自身も、妊娠・出産を経験した方の話を聞く中で「痛みそのもの」だけではなく痛みをどう想像しているか、どう捉えているかが心と体の負担を大きく左右していると感じる場面がたくさんありました。
最近の研究でも「出産の痛みが怖い」「コントロールできない」と感じている人ほど、実際に痛みを強く感じやすいことが報告されています。
一方で、
- 痛みを「波」
- 陣痛を「赤ちゃんが降りてくるリズム」
とイメージし、呼吸と合わせていくことで痛みの感じ方や、出産全体の満足感が高まりやすいという報告も増えてきました。
この記事では
- 痛みを「敵」と見ると体で何が起きるのか
- 痛みを「波」として捉え直すと、なにが変わるのか
- 陣痛中にすぐ使える「波として感じるための3つのステップ」
を、できるだけやさしい言葉でお話しします。
痛みを敵と感じると体で何が起きるのか
痛みを想像したとき、体は勝手に「戦闘モード」に入ります。
- 心臓がドキドキする
- 呼吸が浅く速くなる
- 肩やおなか、太ももなどにギュッと力が入る
これは、自律神経の中の「交感神経」が強く働き体が危険に備えようとしている状態です。
出産の場面でも同じことが起こります。
日本の研究では、出産に強い恐怖を感じている人ほど「陣痛の痛みが大きく、長く続いた」と感じやすいことが報告されています。
また、海外の研究でも
- 痛みそのものよりも
- 「これは耐えられない」「怖い」と考え続けること
が、痛みの強さやストレスホルモンを増やしてしまうという結果が出ています。
つまり「痛み=敵」「壊れてしまいそうなもの」と捉えるほど、体は固まりそのせいで陣痛が進みにくくなったり痛みを強く感じてしまう、という悪循環に入りやすくなります。
痛みを「波」として捉えると体が協力し始める
では、どう捉え直せばいいのでしょうか。
ここで大事になるのが「痛みを波として感じる」という考え方です。
陣痛は、ずっと続く痛みではなく
- 少しずつ強くなる
- ピークを迎える
- 必ずおさまっていく
という「波」のようなリズムをくり返しています。
出産準備クラスやマインドフルネスに基づいた出産教育の研究では
- 陣痛を「波」「流れ」とイメージし
- 呼吸をその波に合わせる練習をしていた人は
そうでない人と比べて
- 痛みの強さをやや低く感じ
- 出産体験への満足度も高い
という結果が報告されています。
作業療法士としてご本人と一緒に「陣痛のイメージ」を整理していくと
- 「痛みのかたまり」
- 「突然襲ってくる黒い何か」
のようにイメージしていた方が
- 「大きめの波」
- 「乗り越えたら必ずおさまる山」
とイメージを変えたことで表情や呼吸がふっと柔らかくなる瞬間を、何度も見てきました。
痛みの正体を変えることはできませんが痛みへの「見え方」を変えることはできます。
その見え方が変わるだけで、体の協力の仕方も変わってくるのです。
波として感じるための3つのステップ
ここからは、陣痛のときに実際に使える「痛みを波として感じる」ための3つのステップを紹介します。
①言葉を変えて、痛みにラベルを貼る
不安や痛みを
- 「怖い」
- 「もう無理」
と、頭の中でくり返していると脳の中の「扁桃体」という場所が強く働き続けます。
ところが研究では、自分の感情や状態に名前をつける(ラベリングする)と扁桃体の働きが落ち着き、気持ちが整いやすくなることが分かっています。
そこで、陣痛が来たときに
- 「また痛くなってきた、怖い」
ではなく
- 「今、波が来ている」
- 「これは赤ちゃんが降りてきているサイン」
と、言葉を変えてみます。
言葉を変えることは、「これは命のための動きなんだ」と脳にラベルを貼り直す作業です。
作業療法の場面でも
- 「失敗」ではなく「練習」
- 「できない」ではなく「まだ途中」
とラベルを変えることで、その後の行動が変わる方をたくさん見てきました。
出産の場面でも同じように、言葉の力は大きいと感じています。
②波乗り呼吸で、体をリズムに合わせる
次に、呼吸です。
呼吸は、痛みの強さそのものを消すわけではありませんが体の緊張と自律神経のバランスを整える強いスイッチになります。
マインドフルネスや呼吸を取り入れた出産準備プログラムでは
- 呼吸に意識を向けることで
- 心拍数が落ち着き
- 痛みと不安がやや軽くなる
という効果が報告されています。
おすすめは「波乗り呼吸」です。
陣痛の波に合わせて
① 来はじめたら、鼻からスーッと息を吸う(おなかが少しふくらむくらい)
② 強くなってきたら、口からフーッと長く吐く
③ 波が引いてきたら、肩と顔の力を抜き、休む
これを、波ごとにくり返します。
ポイントは
- 吐く息を長くすること
- 体のどこに力が入っているかを、吐きながら少しずつ緩めること
です。
「ちゃんとできているかどうか」よりも
- 吸って
- 吐いて
- 休む
というリズムを続けることの方が大事です。
③波と波の間で「休む」ことを自分に許す
陣痛のとき、多くの方が
- 「ずっと頑張り続けないといけない」
と思ってしまいます。
でも、波と波の間にしっかり休めるかどうかが、体力と心を守る大きなポイントです。
マインドフルネス出産プログラムの研究では
- 波の間に「休むこと」を意識してもらったグループは
- 休む意識が薄いグループよりも
出産後の疲労感が少なく、気分も安定しやすかったという結果が出ています。
波がおさまったら
- 肩をストンと落とす
- 顔の力を抜いて、口を少し開ける
- ベッドや床に体重をあずけるイメージをする
など、「休むためのサイン」を体に送ってあげてください。
作業療法士としても、「頑張る時間」と同じくらい「休む時間」をどう作るかはリハビリでも、出産でも、とても大切なテーマだと感じています。
作業療法士としてお伝えしたいこと
出産準備のお話をするとき、私はよく
- 陣痛は痛みのテストではなく
- あなたと赤ちゃんが一緒に進んでいく「作業」
だとお伝えしています。
作業療法では、
- その人がどんなふうに一日を過ごしたいか
- どんなペースで、どんなやり方なら続けやすいか
を一緒に考えていきます。
出産も同じで
- 痛みをゼロにすること
- 理想通りの展開にすること
がゴールではなく「怖さを抱えながらも、自分と赤ちゃんの力を信じて一歩ずつ進めた」と感じられることが、とても大切だと思っています。
痛みを波として捉えることはそのための、小さなけれど力強い道具のひとつです。
さいごに
出産の痛みを怖いと感じるのは、とても自然なことです。
ただ、その痛みを
- 壊してくる「敵」ではなく
- 命を押し出してくれる「波」
として感じられるようになると体の反応も、心の受け止め方も、少しずつ変わってきます。
この記事でお伝えしたことをもう一度まとめると
- 痛みを敵と感じると、体が固まり痛みが増えやすい
- 痛みを「波」として捉えると、体が出産のリズムに協力しやすくなる
- 言葉を変える・呼吸で波に乗る・波の間で休む、この3つが大きな助けになる
ということです。
陣痛の最中に、全部完璧にやろうとしなくて大丈夫です。
- 1回でも「今は波が来ている」と言葉を変えられたら
- 1回でも「フーッ」と長く息を吐けたら
- 1回でも「今は休んでいい」と自分に許せたら
それは、十分すぎるほど立派な一歩です。
あなたの体には、すでに赤ちゃんを生み出すための力がしっかり備わっています。
痛みだけではなく、その奥にある命の強さと、体の賢さにもそっと意識を向けてみてください。
参考文献
- Iizuka, Y. et al. Women with fear of childbirth perceived large accumulated labor pain in Japan. Online Journal of Nursing, 9(18), 656–668, 2018.
- Wang, L. et al. Mind–body modalities during labor and birth: a systematic review of effects on pain and fear of childbirth, 2024.
- Lieberman, M. D. et al. Affect labeling and the regulation of emotion. Psychological Science, 2007.

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