はじめに
作業療法士として、夫婦や家族のお話を聞いていると
- けんかの理由は「お金」や「家事」のように見えるけれど
- 根っこには「大事にしているもののちがい」がある
という場面をほんとうによく見ます。
私自身も、結婚や仕事のことでパートナーと話すときに
- なんで分かってくれないんだろう
- 同じ方向を見ているつもりなのに、かみ合わない
と感じて、モヤモヤしたことがありました。
そこで心理学や家族研究の文献を読んでいくと「何を大事にして生きたいかを言葉にして共有している夫婦ほど、関係の満足度が高い」という研究がたくさん出てきます。
この記事では
- なぜ価値観の共有が夫婦関係に大事なのか
- 家でできる「人生マップ」のつくり方
- 作業療法士として感じる、使うときのコツ
を、できるだけやさしい言葉でまとめていきます。
価値観の共有が大事な理由
アメリカの心理学者ジョン・ゴットマンは、夫婦を長年追いかけた研究の中で長くうまくいく夫婦の共通点は「お互いの人生観や夢をよく知っていること」だと述べています。
- どんな仕事をしていたいのか
- 家族や子どもをどう大事にしたいのか
- どんな老後を過ごしたいのか
こうした価値観を、ふだんから話せている夫婦は
- けんかをしても立て直しが早い
- お金や子育ての大きな決断をするときも協力しやすい
というデータが出ています。
一方で
- 「結婚したら自然と価値観もそろうだろう」
- 「わざわざ言わなくても分かってほしい」
と、お互いの頭の中を言葉にしていない夫婦は
- 進学や転職、引っ越しなどのタイミングで
- 「そんなふうに考えていたの?」というズレが一気に表に出て
大きなストレスになりやすいことが分かっています。
作業療法の世界では、その人の「大事にしていること」を見える形にして、リハビリや生活の目標を一緒に決めていきます。
夫婦の人生マップづくりも、それにとてもよく似ています。
人生マップとは何か
ここでいう人生マップとは、「自分とパートナーが、どんな人生を歩みたいかを一枚の紙に描いた地図」のことです。
むずかしいものではなく、A4用紙とペンがあれば大丈夫です。
紙を横向きにして
- 真ん中に「今」
- 左側に「これまで」
- 右側に「これから」
とざっくり分けます。
そこに
- 大事にしてきたこと
- 今いちばん力を使っていること
- これから10年で大切にしたいこと
を書き込んでいきます。
心理学者シュワルツは、人が大事にする価値観を「家族」「安全」「自由」「挑戦」などのグループに分けて説明しています。
人生マップは、こうした抽象的な価値観を、日常の言葉で書き出していくイメージです。
ここで大事なのは「同じ地図にそろえること」ではなく「お互いの地図を知ること」です。
人生マップのつくり方
① まずはそれぞれが自分のマップを書く
いきなり向かい合って話すと、気をつかって本音が出にくいことがあります。
なので、最初はそれぞれ1人で書くのがおすすめです。
たとえば、次のような質問を自分にしてみます。
- これまでの人生で「やってよかった」と思う選択は何か
- 今の生活で、いちばん時間やエネルギーを使っているのは何か
- 10年後、どんな1日を過ごしていたらうれしいか
思いついたことを、短い言葉でどんどん書いていきます。
例
- 過去ゾーン
- 大学で専門を学んだこと
- 一人暮らしで自立できたこと
- 大学で専門を学んだこと
- 今のゾーン
- 仕事のやりがい
- パートナーとの時間
- 仕事のやりがい
- 未来ゾーン
- 住みたい場所
- 子どもを育てたいかどうか
- 仕事のペース
- 住みたい場所
作業療法士として感じるのは、自分の気持ちを紙に書き出すだけでも、不思議と頭の中が整理されていくということです。
② マップを見せ合いながら、質問し合う
次のステップは、書いたマップを交換して見せ合う時間です。
このときのポイントは
- 相手を変えようとしない
- 「なぜそう思うのか」をやさしく質問する
この2つです。
たとえば、相手の未来ゾーンに
- 「海外で暮らしてみたい」
- 「いつか独立して働きたい」
と書いてあったら
- 「その考え、前から持っていた?」
- 「それがかなったら、どんな気持ちになりそう?」
と、興味を持って聞いてみます。
ここで大切なのは、「それは無理じゃない?」と評価しないことです。
作業療法の場面でも、目標を話してもらうときは「できるかどうか」よりも「なぜそれが大事なのか」に耳を傾けます。
夫婦の会話でも同じで、相手の夢や不安の背景にある価値観を聞くことで、理解の深さが変わってきます。
③ 共通のポイントと違いを色分けする
最後に、2人のマップを見比べて
- 共通して大事にしているところ
- 考え方に差があるところ
を色ペンなどで分けてみます。
例
- 2人とも「家族との時間」を大事にしている → 緑で丸をつける
- 片方は「都会で暮らしたい」もう片方は「自然の多い場所が好き」 → 青で線を引く
- 片方は「子どもを育てたい」もう片方は「子どもはいてもいなくてもいい」 → 赤で囲む
この作業をすることで「私たちは全然合わない」ではなく「合う部分もあれば、話し合いが必要な部分もある」と、具体的に見えてきます。
東京大学の調査では、夫婦で将来のイメージを言葉にして話し合う回数が多いほど、幸福度が高いことが報告されています。
人生マップは、その「話し合い」のきっかけになるツールです。

人生マップがもたらす良い変化
人生マップを一緒につくると、どんな良いことがあるのでしょうか。
① 相手の発言の意味が分かりやすくなる
たとえば、パートナーが
- 「転職したい」
- 「引っ越しを考えている」
と言ったとき、マップを共有していないと
- え、今のままでいいのに
- なんで急にそんなことを言うの
と、ただ不安になってしまうことがあります。
でも、人生マップで
- 「挑戦」や「成長」を大事にしている人
- 「安定」や「安心」を大事にしている人
という背景が分かっていると
- この転職の話は、あのとき言っていた「成長したい気持ち」から出てきているんだな
と受け止めやすくなります。
② けんかが「勝ち負け」ではなく「調整」に変わる
価値観がぶつかると、つい
- どっちが正しいか
- どっちが我慢するか
という話になりがちです。
けれども、人生マップがあれば
- 「あなたはここが大事なんだね」
- 「私はこっちが大事なんだ」
と、まず相手の大事なものを確認したうえで
- どこなら折り合いがつきそうか
を一緒に探すことができます。
心理学の研究でも、価値観の違いそのものより違いを話し合う力があるかどうかが、夫婦満足度に強く関係していると報告されています。
③ 自分自身の人生の優先順位も整理される
人生マップは、パートナーのためだけでなく、自分のためにも役立ちます。
私自身も、仕事・家族・学び・趣味を書き出してみると
- 今は仕事にエネルギーを使いすぎている
- 家族との時間も、本当はもっと増やしたい
ということが、はっきり見えてきました。
その結果
- 残業を減らす工夫をする
- 家族との予定を先にカレンダーに入れておく
など、行動も少しずつ変えることができました。
さいごに
パートナーとの価値観のズレは、悪いものではありません。
違いがあるからこそ、助け合える場面も増えるし、お互いの世界も広がっていきます。
大切なのは
- ちがいを放置したままにしないこと
- どこが似ていて、どこがちがうのかを、一緒に見える形にしていくこと
だと、作業療法士として多くのご夫婦と関わる中で感じています。
人生マップづくりは、そのためのひとつの方法です。
- 紙1枚とペンを用意して
- 「これまで」「今」「これから」を書き出して
- お互いの地図を見せ合ってみる
そんな小さな一歩から、対話の質が変わり、未来の決め方も変わっていきます。
あなたとパートナーにとっての「いい人生」は、他の誰とも違うはずです。
だからこそ、2人だけの人生マップを、少しずつ描き足していってみてください。
参考文献
- Gottman, J. M. The Seven Principles for Making Marriage Work. Updated Edition.
- 東京大学社会科学研究所 夫婦関係と幸福度に関する全国調査 2023
- 内閣府 家族・結婚・子育てに関する意識調査 2022
- Schwartz, S. H. (2012). An Overview of the Schwartz Theory of Basic Values.


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