新生児の授乳タイム、親子の絆を深めるコツとは?

木曜日(育児と発達を見守る)

はじめに

作業療法士として赤ちゃんやママと関わっていると、よくこんな声を聞きます。

「母乳がうまくいかない」
「ミルクだから、ちゃんと愛情をあげられているか不安」
「授乳がつらくて、楽しめない自分がイヤになる」

私自身も、小さな赤ちゃんと関わる中で授乳は「ごはんタイム」であると同時に、「心の充電タイム」でもあると強く感じてきました。

最近の研究でも、授乳の時間は

・赤ちゃんの心の安定
・ママやパパのストレスの軽減
・親子の絆づくり

にとても大切な役割を持っていることが分かってきています。

この記事では、できるだけむずかしい言葉を使わずに

  • 授乳中に体の中で何が起きているのか
  • 母乳でもミルクでも大丈夫と言える理由
  • 今日からできる「絆を深める授乳のコツ」

を、エビデンスと作業療法士としての目線をまぜながらお話しします。

授乳中にママと赤ちゃんの体で起きていること

授乳の時間、ママと赤ちゃんの体の中では、目に見えない変化がたくさん起きています。

①ママの体で起きていること

授乳をすると、ママの脳から オキシトシン というホルモンが出ます。
オキシトシンは

  • 子宮を元の大きさに戻すのを手伝う
  • 心を落ち着かせる
  • 相手をいとおしく感じやすくなる

といった働きがあると言われています。

②赤ちゃんの体で起きていること

赤ちゃんも、授乳中にオキシトシンが出ることが分かっています。
このとき赤ちゃんは

  • ママやパパの
  • 抱っこされたときの ぬくもり
  • 授乳のときの 匂い

といった情報をセットにして「安心の記憶」としてためていきます。

研究では、授乳中にママと赤ちゃんが目を合わせる時間が長いほど赤ちゃんの感情が安定しやすく、泣きやすさも少ない 傾向があると報告されています。

作業療法士として赤ちゃんを見ていても

・授乳中によく見つめ合っている親子

は、赤ちゃんの表情がやわらかく、体もふわっと力が抜けていることが多いと感じます。

母乳でもミルクでも、絆はちゃんと育つ

ここで多いのが

「母乳じゃないとダメですか」
「ミルクが多いと、愛情が足りなくなるのでは」

という不安です。

結論から言うと、母乳かミルクかだけで絆の深さは決まりません。

国際機関や大学の研究では

  • 授乳の時に 肌が触れ合っていること
  • 赤ちゃんを 見つめること
  • やさしい声で 話しかけること

この3つがそろっていると、母乳でもミルクでも、オキシトシンが増えやすいことが分かっています。

つまり大切なのは

何を飲ませているかより、「どう過ごしているか」

です。

私も現場で、母乳がつらくて泣きながらミルクに切り替えたママたちをたくさん見てきました。
でも、そのママたちはみんな

  • 授乳のときに赤ちゃんのほっぺをそっとなでる
  • 「おいしいね」「がんばって飲んでるね」と声をかける

そんな時間を大切にしていて、赤ちゃんもとても安心した表情をしていました。

授乳の形より、そこに流れている「まなざし」と「ぬくもり」が、絆を育てます。

私の娘は完全ミルクで育っています。

親子の絆を深める授乳のコツ

ここからは、今日からできる具体的なコツを3つにしぼってお伝えします。

①見つめる 30センチの距離をいかす

新生児の視力はまだはっきりしていませんが約30センチの距離 はよく見えると言われています。

30センチというのは

  • 授乳のときの、ママの顔と赤ちゃんの顔の距離
    とほぼ同じです。

この距離で目や顔を見せてあげることで、赤ちゃんは少しずつ

  • 「この顔の人は安心できる」
  • 「この声の人は自分を守ってくれる」

と学んでいきます。

授乳中だけは、できるだけスマホを置いて、赤ちゃんの顔をゆっくりながめてみてください。

まぶたの動き、口の動き、飲み方のクセ。
小さな変化に気づけることも、絆づくりの大事な時間です。

②語りかける 小さな実況中継でOK

授乳中の声かけは、むずかしい言葉でなくて大丈夫です。

  • 「おいしいね」
  • 「たくさん飲めているね」
  • 「ゆっくりでいいよ」

など、心の中で思っていることを、そのままやさしく言葉にしてみてください。

赤ちゃんは言葉の意味は分からなくても声の高さやリズム、やわらかさ をよく感じ取っています。

研究では、ママやパパのやさしい声を聞いているとき赤ちゃんのストレスホルモンが下がり、心拍も落ち着きやすいことが分かっています。

作業療法士として私がよくおすすめするのは

  • 「飲んでるね」
  • 「ゴクンできたね」
  • 「ちょっと休憩だね」

といった プチ実況中継 です。

こうした言葉かけは

  • ママやパパ自身も、赤ちゃんのペースを落ち着いて見守れる
  • 赤ちゃんも、一定のリズムで安心できる

という、両方にとって良い効果があります。

③触れる 手のひらで「だいじょうぶ」を伝える

授乳中は、次のような触れ方を意識してみてください。

  • 赤ちゃんの 背中をゆっくりなでる
  • 赤ちゃんの 足の裏にそっと手を添える
  • 赤ちゃんの ほっぺに自分のほっぺを軽くくっつける

やわらかい皮膚の刺激は、赤ちゃんの

  • 心拍数
  • 呼吸のリズム

を安定させると言われています。

特に、手のひら全体でふんわり包むように触れると赤ちゃんの体の力が少しずつ抜けていくことが多いです。

私自身、現場でぐずっていた赤ちゃんにママと一緒に「背中ゆっくりなでなで」をお願いしたとき赤ちゃんの表情がふわっとゆるみ、そのまま眠ったことが何度もあります。

触れることは「だいじょうぶだよ」を言葉よりも早く伝えてくれる方法 です。

授乳が「うまくいかない」と感じたときの心の持ち方

授乳は、毎回スムーズにいくとは限りません。

  • なかなか飲んでくれない
  • 途中で泣いてやめてしまう
  • こっちが泣きたくなる

そんな日も、もちろんあります。

そのときに覚えておいてほしいのは

「うまく授乳できたかどうか」より
「赤ちゃんと一緒に過ごせたかどうか」を見てあげてほしい

ということです。

たとえ今日は少ししか飲めなかったとしても

  • 抱っこしていた時間
  • 見つめ合った時間
  • 声をかけた時間

は、すべて赤ちゃんの心の中に「安心のかけら」として残っていきます。

作業療法士として、私はよく「授乳は、栄養と愛情の両方を小分けにして渡していく作業」だとお話しします。
うまくいかない日があっても、その小さなかけらは必ず積み重なっていきます。

さいごに

新生児の授乳タイムは

  • お腹を満たす時間
  • 心を満たす時間
  • 親子の絆を少しずつ太くしていく時間

の全部が合わさった、とても大切なひとときです。

母乳かミルクかではなくその時間をどう過ごすかが、絆を育てます。

  • 見つめる
  • 語りかける
  • 触れる

この3つを、完璧でなくていいので、今日できる範囲で試してみてください。

あなたが「うまく飲ませなきゃ」と力を入れるほどではなく「一緒に過ごせてうれしいな」と少しでも感じられる瞬間が増えること
それが、赤ちゃんにとってもいちばんの安心になります。

授乳は、最初から上手にできなくて大丈夫です。
回数を重ねるたびに、赤ちゃんもあなたも少しずつ慣れていきます。

そのゆっくりした歩みの中で
親子の絆は、静かに、でも確実に育っていきます。

参考文献

・World Health Organization, UNICEF. Early moments matter for every child, 2017 など
・Feldman, R. Maternal touch and infant stress regulation. Developmental Science, 2020
・Braun, K. et al. Maternal voice and infant cortisol responses. Infant Behavior and Development, 2020
・国立成育医療研究センター 母子相互作用とホルモン分泌に関する研究, 2021

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